午前三時の港町

理系院生(半導体)→コンサルティングファーム。IT基盤側。エクセルとパワーポイントしか使っていないため技術力はお察し。本やゲームの感想や学習記録など付ける予定。記載内容は個人の責任で、所属組織を代表するものではありません。

【備忘録】2017年度に読んだ本まとめ

【概要】

2017年度に読んだ本の中で良かった本をメモしておく。
背景として私生活の話をすると、有機系の太陽電池の研究をしていた修士課程を終えて新卒でコンサルティングファームに就職。1年目を過ごした。
技術書を除き、読んだ本の中から個人的に上位30%くらいの書籍を対象に短く感想を残しておく。

【感想】

・白石 隆『海の帝国』(中公新書)

東南アジアの地域秩序の変遷についてマクロ的視点で描いた本。
仕事で東南アジアに飛ばされると完全に思い込んでた時期に形から入ろうと買った。
特に第二次大戦後の地域秩序については知識を持っていなかったので参考になった。
本筋から少々逸れるが、「近代的自我の目覚め」として引用されているジャワ人少女の描写が秀逸だった。


・猪木 武徳『戦後世界経済史―自由と平等の視点から』(中公新書)

第二次大戦後の世界史を経済の観点で纏めた本。やたら分厚い。
社会人になったので、経済的な本も読んでおこうと買った。
後進国同士の経済発展の差について分析している箇所はとても興味深かった。
政治の安定・自由と経済発展の関係などの観点で総括もされている。


・遠藤 周作『王の挽歌』(新潮文庫)

戦国大名の一人、大友宗麟が主人公の小説。
新人研修中のグループワーク()で精神を限界まですり減らした際に読んだ。
物語の雰囲気は終始暗い。主人公は精神的な苦悩を抱えているが、戦国大名として様々な問題に対処する責任がある。
そうした人物を親に持つ子にも苦悩があり、最終的に大友氏は宗麟の子の代で改易されてしまう。
大友宗麟豊臣秀吉二人が千利休を交えて向かいあう場面は非常に印象的だった。
二人を通して、内面の苦悩と闘い続けた者とそのような苦悩を覚える事無く社会の回想を駆け上がった者とが対比される。
その中で主人公は秀吉の姿を見て苦悩し続けた自らの人生を誇り高く感じていた。
僕の好きな人物の類型に「常人とは比較にならぬ程強い精神的な苦悩を抱えながら、行動し続けた/する他なかった」という物があり、本作の宗麟もまたそういう人物だった。


・三谷 太一郎『日本の近代とは何であったか――問題史的考察 』(岩波新書)

日本の近代を①政党政治②資本主義③植民地化④天皇制の観点で分析する本。
明治憲法下の権力分散のメカニズムを、西洋的な視点ではなく、合議制が主であった幕藩体制の延長として捉える等、新鮮な視点が多かった。
教育勅語に含まれた意図と結果、そして弊害についても詳しく抱えており、参考になる。
やや思想の匂いを感じたものの日本の近代を捉え直すにはオススメの良書。


・ウィリアム・H・マクニール『疫病と世界史』(中公文庫)

疫病の観点から人類史を語る文句なしの名著。
同著者の『世界史』と『戦争の世界史』やジャレド・ダイヤモンド氏の著作や『サピエンス全史』などは既読で、そろそろ読もうと思って購入した。
論の展開が強引な箇所もあるが、歴史に残された証拠を元に背景を考察していくプロセスの数々は大変興味深い物だった。
特に疫病と信仰の関係について考察した箇所が印象的だった。


・マーク・マゾワー『バルカン―「ヨーロッパの火薬庫」の歴史』(中公新書)

バルカン半島の歴史について記載した本。
新刊チェック時に発見し即購入。サラエボ事件とチトーしか知らない人間だったが、セルビアオタクの友人にギリギリ追従できる知識がついた。
バルカン半島のような民族分布が複雑に入り組んだ地域を学ぶと民族自決の弊害を否が応でも知る事になる。
自分が密かに抱えている個人的なテーマの一つである「寛容性の獲得」について改めて意識する事が出来た。


・岡田 暁生『オペラの運命―十九世紀を魅了した「一夜の夢」』(中公新書)

オペラの歴史について解説した本。
著者買い。以前読んだ氏の著作『音楽の聴き方』ではベートーヴェンの第九に関わる一連の描写が素晴らしかった。
本著においてもその描写力が遺憾なく発揮されている。
また、オペラを単なる劇としてではなく観客も含めた「場」として捉える事や、国民的音楽に潜む二面性(同胞意識と国威発揚の相反性)などの解説は非常に興味深いものであった。


・亀田 敏和『観応の擾乱 - 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い』(中公新書)

観応の擾乱を扱った本。AD1300~1500の日本史は分からない(AD1400~の関東限定なら分かる)が、隠れ太平記ファンの一人なので発売日に書店に駆け込んだ。
非常に噛み砕いて解説してくれているのだが、如何せん元々の乱が意味不明レベルの難解さであり、理解は困難を極めた。
細かい乱の推移と各人物の所属陣営は殆ど頭に入ってこなかったが、人物や社会の分析などは刺激的だった。
筆者の洞察を通して、報酬を適切に分配する制度作りの難しさと、努力が報われる社会の重要性を再認識する事が出来た。


・近江 俊秀『古代日本の情報戦略』(朝日選書)

古代日本の情報通信技術と戦略、特に駅制について解説する本。
同期から借りた。中央集権国家だからこそ出来るスケールの大きな計画と成果物の一つである直線の街道。
さながら日本版のローマ街道に無邪気な高揚を感じたが、社会の変化とともに制度の維持が困難となり、崩壊に至るまでの経緯は物悲しさを感じさせるものだった。
「全ての伝統や制度は定期的にそれが当初の目的に対し合理的であるか再検討する必要がある」という自分の考えが悲哀と共に強化された。


・細谷 雄一『国際秩序 - 18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ』(中公新書)

高坂正堯の『国際政治』という名著があるが、この本では『国際政治』で主に取り上げられていた勢力均衡以外にも協調や共同体の概念を取り上げ、それらを独立・複合的に解説する中で多面的に平和・秩序について洞察している。
ウィーン体制ビスマルク体制を単なる勢力均衡の視点でしか捉えきれていなかったが、本書を読み安易なお花畑外交とは別種の協調の概念を理解できた。
『国際政治』と等しく外交の話をするなら各種の教科書とあわせ、最低限読むべき本に挙げたいと思う。


・君塚 直隆『ヴィクトリア女王大英帝国の“戦う女王”』(中公新書)

本屋で見かけて買った本。イギリス史については別の本でそれなりに理解出来ていたので、話はすんなり入ってきた。
イギリスが世界最強だった時代。イギリスは清教徒革命終わった辺りから王より政治家の名前の方がフォーカスされる感覚だが、この君主は君臨も統治もする。
第一次世界大戦時のロシア、ドイツ、イギリスの君主が全員彼女の孫という悲劇性の高さをこの本で初めて知った。


・桃井 治郎『海賊の世界史 - 古代ギリシアから大航海時代、現代ソマリアまで』(中公新書)

世界各地の海賊について解説した本。
オスマン帝国が健在だった頃のモロッコアルジェリアリビアに海賊が跋扈していたというのを初めて知る。
バルバリア海賊はトルコ沿岸部から出撃してると勝手に思い込んでたが、北アフリカが本拠地だった。彼らによって繰り返される襲撃の影響で地中海の沿岸部の住人が激減したというのは驚きだった。
また、北アフリカの海賊国家がアメリカやヨーロッパ各国と外交を行っていたというのも興味深い記述だった。
ヨーロッパ対立の隙間で生きていた海賊たちが、ウィーン体制でヨーロッパに生まれた協調によって駆逐されていく顛末も含め、自分にとって未知だらけの本で非常に刺激となった。


・飯田 洋介『ビスマルク - ドイツ帝国を築いた政治外交術』(中公新書)

クレッチマーの『天才の心理学』に記されていた彼の性格上の両極性を意識しながら読んだ。
一般的な天才外交家のイメージは覆されたが、意図せざる結果に策士策に溺れる形になりながらも結果的に上手く納めてしまう天性の術に惚れる。
また、意外に保守的な人間で伝統社会を守ろうとしていた事に驚いた。
死後の神格化にも触れられていて、「戦艦ビスマルク」という名が当時のドイツでどのような意味を持っていたかも知ることが出来た。
まぁ沈んだんですけどね。ヒンデンブルグは爆発するし。
ビスマルクという人物に性格的な類似を感じる事もあって、共感的に読み進めたが、最後は憂鬱な気持ちになってしまった。
彼は幸せだったのだろうか。そんな考えが読後にふと浮かんで消える。
余談だがTwitterに読了報告したら著者にいいねされた。恥ずかしくて黙殺しましたが研究頑張ってください。陰ながら応援してます。(コミュ障)


・河合 秀和『チャーチル―イギリス現代史を転換させた一人の政治家』(中公新書)

ビスマルクからのチャーチル。少年期に年上の先輩(将来的に政治家になるはず)をプールに突き落としたりする面白エピソードあり。
自分を英雄と同一視していたり、ダメな部分も多いわ周囲から嫌われて不遇の時期を過ごしたりするのだが、不満吐き出していても終始楽しそうにしか見えないのは、彼の行動力故か。
バトル・オブ・ブリテンやら鉄のカーテンやら造語のセンスもあり、絵も趣味でプロレベル。
ビスマルクとは真逆の、だが同じく魅力的な人物で、読んでいて楽しい気分になった。


・石野 裕子『物語 フィンランドの歴史 - 北欧先進国「バルトの乙女」の800年』(中公新書)

独立の節目なので読む。リーナス・トーバルズの出身国でもあるため、エンジニア(自称)の端くれとしては無視できない国。
シモ・ヘイヘやマンネルヘイムを知ってる程度だったが、第二次大戦以前、以後のフィンランドについての概要を学ぶ事が出来た。
ソ連の圧力と戦い続け、最後は民族揺籃の地カレリアをソ連に奪われる望郷の悲劇的国家イメージを持っていたが、カレリアが揺籃の地にされるまでの流れや、継続戦争でノリノリでソ連に攻め込む記述(大フィンランド)を見て唖然。
だが、リュティとマンネルヘイムのナチスに対する外交などは僕の琴線に触れた。


・渡辺 正峰『脳の意識 機械の意識 - 脳神経科学の挑戦』(中公新書)

本の内容は想像以上に攻めていた。
前提無しでは突拍子も無い事なのに、現実の事例から検証可能性に立脚した論を展開していくので、寧ろ納得してしまう。筆者の能力に脱帽。
知的刺激としては2017年度最大のヒット。


・角山 栄『茶の世界史 改版 - 緑茶の文化と紅茶の世界』(中公新書)

思いつきで読む。明治期に日本茶の海外輸出やろうとして失敗した話があり、興味深かった。
何故、イギリスでは茶なのかについて、歴史を軸に語られていた。


・著者多数『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』(中公文庫)

特別枠。読んだ本は時折パラパラめくって再読するが、2017年度では一からしっかり再読した唯一の本。
日本人必読レベルの名著だと思っている。


・渡辺 克義『物語 ポーランドの歴史 - 東欧の「大国」の苦難と再生』(中公新書)

映画『With Fire and Sword』を見てポーランド熱が燃えていた時に読んだ。
興味のあったのはポーランド・リトアニア共和国~分割のあたりだが、記載が少なく残念。
本書のメインはWW2。レジスタンスの現金輸送車襲撃や暗殺などは現場での各員の位置関係などが図示されていて分かりやすかった。
ポーランドと言えば、の303飛行中隊の話もある。
戦後についても知れたので良かった。


・吉田 裕『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(中公新書)

食料や医療が不足する劣悪な補給状態で、兵士一人一人が直面した凄惨な体験が描かれていた。労働集約的(生産性が低い)な組織構造や白兵主義など日本軍の代表的な欠点についても触れられている。
兵站は超重要だということを再認識した。


【総括】

社会人1年目という事もあり、2017年度はあまり本を読む事が出来なかった。
全体的に中公新書が多い1年だった。(岩波文庫で興味ある奴は学生時代に殆ど読んでしまっている)
本のジャンルとしてはまず技術書がかなり増え、哲学を読まなくなった。
文学・芸術関係の本も割合としてはかなり少なくなっている。
詳細は省くが以前ほど所謂教養に対する興味が減じたのが原因である。
2018年度においては読書時間を減らし、技術と各種のアウトプットにリソースを費やしていきたい。
(ゲームやサイクリングといった動的な趣味は継続予定)